〇現状
新型コロナ禍の中、装置産業の中でも集客がメインのテニス事業にとって危機が訪れていることはこの仕事に携わる者にとって周知しているはずだが、いまひとつ危機感が足りないと感じる。ただ黙って世情の動向を眺めている者が多いからだ。
コロナ前の状況に回復するには時間がかかることは覚悟しているが、その間どんな手法を下すかで回復時期をより早くスムースにすることを考えなくてはならない。
それをやるのは今しかない。これからは復帰するお客、新規客のどちらを優先するかではなく、絶対数を集める必要があるなからだ。
新型コロナの死亡者が1,000人とするとインフルエンザは3,000人と約3倍いるが、ワクチンや薬があるインフルエンザは安心感があるため、新型コロナを恐れる傾向は依然強く持病や既往症を抱える中高年の復帰は殆ど望めない。
地域差はあるがKidsとジュニアは学校で密な場所は避けるように指導されているため、児童本人の意思が強いか保護者の考えがテニスを続けさせるか否かで在籍が決まる。しかし新型コロナ問題で収入減少が進むことは必至のため平行して可処分所得が減少する状況下では、学校の指導を理由にテニススクールから退会することはやむを得ない事態が増加していることも事実である。
そこでこれからの集客を考えたとき、これまでのテニス目的一辺倒では難しくなることが予想されるため他の集客手段を講じる必要性が生じてくる。
地域における会員制テニスクラブ・スクールは文化と情報の発信拠点である。プレイにこだわることは無論だが、そこに集まる人たちの文化・教養等の交流の場所であることは今も昔も同じだ。
プレイが目的以外の人たちの集客を推進することで「さまざまな人が集まる」場所にすることで、そこから先に何かできてくることを始めたい。或いは多くの情報が行き交うプラットホーム的な考えでも良い。
大切なことはこれまで見過ごしていた手法やこれまで上手くいかなかった集客手段を拾い上げ精査し、ブラッシュアップしてテストしてみることだと思う。
テニス以外のスポーツや商品とのコラボレーションも再度検討してみる必要があるだろう。正念場の今、生き残るためになりふり構わずとまではいかないまでも、これまで捨てていた手法の中から拾う一手が欲しいと考えているのは私だけではないと思う。
更にこれまで当たり前のことを当たり前に判断し、利益が薄いからと捨ててきたことや、ヒントがあったにもかかわらず目先の利益を追いかけることで埋もれさせていた企画等も掘り返して検討することが求められる。そしてテニスという眼鏡を通していて来た常識を疑うことの必要性もあろう。
相手が見えないのはコロナも同じだが、これまで事業を継続してきた経験と知恵がものを言うときでもある。スクールの存在意識を再度確認・認識し、その価値を再考して、他の利益を上げる手法を取り入れることが、コロナ禍の中で共存しながら生きていくことに繋がることを実行する必要がある。
この点で経営者は自分の感覚で変えていくだけでなく、スタッフの考えを引き出し、世代を超えたそれぞれの経験と価値観を集約して方向性を見出だす必要があるだろう。
最後は「直観」で良いと思う。経営者は自分の判断と決断を信じ前に進むことが大切で、進むことで次の手法・手段が見えてくるに違いないからだ。
〇近況
2020年10月末日現在の私が管理運営責任者のテニススクールの状況について報告する。
2019年末に複数受講者を含め約1000名いた在籍会員が2020年1月~6月末日までに約30%まで減少した。この中には例年3月末日で退会するジュニア(小学6年生と中学3年生)と転勤族が含まれているがそれでも多すぎる。一般成人は65歳以上の持病と既往症を持つ人が多い。
全国平均では15~20%程度と予想されるが、減少が著しいのはインドアスクールである。室内という「密」に対しての恐怖感がお客様の脚を遠のかせた。
最初にトレーニングジムで発生が確認され報道された新型コロナ感染拡大は、その後全てのスポーツ施設という総合的表現に変わり、やがてスポーツ全てが密の代名詞に感じられた国民感情は否定できない。しかしテニスは直接接触することはなく、コート1面に対しての人口密度は高くない。アウトドアコートでの減少率は低く感染拡大期間とされた時期でも営業を継続していた事業所は減少率が低い傾向になっている。当然と言えば当然だが、インドアが休業した際にアウトドアに移動したお客様は多く、この状況下でもプレイを継続して楽しみたいという熱烈なテニスファンが多いことにあらためて気づかされた。
現在休退会された人の半数近くは戻ってきた事業所もあるが、ジュニア層についてはまだまだ戻っていない傾向が強い。これは学校から「人が集まるところには行かないように」と指導されていることが挙げられる。
これに追い打ちをかけるように可処分所得が低下した保護者は、経済的理由を避けて子供を辞めさせる口実に退会を促した。つまりよほど理解と経済的余裕がある家庭以外は退会せざるを得ない状況を作っている。
一般成人も65歳以上の戻りは少なく、本人が戻りたくても家族からの要請で戻れない人が多い。健康維持と週一回の自分の存在を確認しながら楽しい時間を過ごすために通っていたスクールだが、家族の反対を押し切ってまで復帰するには、よほどの自信と行動力が必要になるため多くが諦めて引きこもり生活に入ってストレスが溜まっている人が多くなっている。この運動不足とストレスの増加は今後介護が必要な高齢者が急速に増加することと予想される。
それでも9月末日現在、当スクールの復帰状況も65歳以上は皆無に等しく新規が例年よりも低い入会数であるが約900名まで回復してきている。東京都に隣接する埼玉県川口市という立地が回復傾向を生んでいることは有難いが全国的には未だ回復力が弱い。
スクールに復帰する傾向が高いのは東京をはじめとする大都市部で地方に行けば行くほど復帰率は下がる傾向にある。
東京を例に挙げると、感染者数が毎日200名を超えていても、自宅近隣で感染者が発生する以外は情報が少ない。仮に隣のマンションや近隣のスーパーマーケットで感染者がでても、自分や家族が注意していれば大丈夫と考え、たまたま近くで出たと一過性に感じることが多い。それだけ人口が多く普段の付き合いの無い人たちが生活しているのが多いからだ。反対に地方都市町村では、直ぐに〇△村の誰さんと判ってしまうため警戒心が強くなるのは当然のことだ。
観光業支援事業のGo Toキャンペーンが始まり地方県での感染者が出るたびに、地元は騒ぎ警戒し、観光客や大都市から来た人を恐れ嫌う傾向は当分続くと考えられる。
外食産業支援事業のGo to eat キャンペーンでも感染者が拡大していると思われるが、お店側の努力のおかげで今のところ大きな感染拡大の情報が無く、むしろポイント還元の魅力に押され人気は高まるばかりで、コロナ感染前に人気だった居酒屋は週末満席状況が続いている。これも都市部が多く地方都市では今一つの状況である。絶対人口数の差はここにも表れている。
しかしテレワークでは営業不可能なテニスをはじめとするスクール事業は今後も事業主にとっても働くスタッフにとって苦しい状況は続くことになるだろう。
ところが大都市圏近郊都市の事業所では在宅テレワークにより平日昼時間帯に一般の入会者が増えてきた事業所もある。この時期に新規入会は有難いものだと喜ばしいと考えるが、このテレワークがいつまで続くのかを考えると不安もある。
しかし企業側からみれば、在宅で仕事の効率が下がることが無ければ継続するだろう。
理由として挙げるのは交通費の削減と残業代の削減である。特に事務職はその可能性が高く週に1日か2日の会社への出勤だと定期代が必要なくなり日数分の支給で済む。
残業代はなくなり、代わりに自宅勤務手当(PCや冷暖房費にかかる電気代)という名目の少額の手当に代わる。残業代がお小遣いになっていたサラリーマンにとっては大きな減額となり痛手となる。これは大都市部の大手企業だからできることで、中小企業や地方都市の企業は難しい。
サラリーマンにとってもう一つの痛手は通勤定期を利用して済ませていた付き合いでの飲食や週末の都市部に買い物に出かけることが無くなる。そのため都市部の百貨店や専門店や飲食店にも影響が出ることになる。反対に地元商店街や郊外型の大型ショッピングセンターが盛況になる可能性はある。しかし可処分所得が低下することで購買意欲は下がり経済活動は低下することになるだろう。コロナ感染により生活への影響が本当に始まるのはこれからと言えるだろう。
〇物品販売の変革を考える
テニススクールのクラブハウスはショップも兼ねている。つまり「お店」である。飲食などが伴う場合は保健所や行政の許可が必要だが、それ以外はお店で何を扱うかは経営者の自由である。
これまではお客様のニーズに応えるための商品を仕入れ販売していた。今後はお客様が欲しがる商品を提案して販売する方向に移行する提案型販売が必要になる。
それがテニス用品以外の商品でも構わない。むしろ話題性を生むことに繋がり集客に結び付けることが可能になるだろう。
つまりクラブハウスの機能を「ギャラリー」「雑貨屋」「小売店」あるいは「コンビニエンスストア」を兼ねる考え方に見直すことも必要になる。
地域ブランドで行列ができるお店とコラボして隣町まで出かけなくてもクラブハウスで購入できるパンやお菓子といった食料品や、手作りのバッグや調度品などを扱うことができれば便利で嬉しい交流の場となるだろう。
或いは道の駅のように近隣農家から自家栽培の野菜や加工品を持ち込んでもらい、並べて販売するプラットホーム型のマルシェ(市場)を企画する方法もある。
不特定多数の新たな集客を可能となり、そこから新規の受講会員を獲得する相乗効果を狙いたい。
地域性、立地条件、顧客層によっても変わるが、これまで地元密着型事業を追い続けてきたテニス事業にとっては正念場の変革を余儀なくされる場合もある。ピンチをチャンスに替え生き残りをかけて変革に取り組む姿勢と行動が早急に求められる。
そして未来に向けての新たな事業体制を構築されることを期待する。
以上